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「感動した!」。そう言って、当時の小泉首相が貴乃花に賞状を手渡したのは、平成13年夏場所のことだった。貴乃花と武蔵丸による熾烈な優勝争い。14日目に右ヒザを脱臼し、普通なら立っていられない状態の貴乃花が千秋楽で武蔵丸と相まみえる。本割は武蔵丸が勝ち、2横綱による優勝決定戦。ここで貴乃花が類い稀な精神力を発揮して、武蔵丸を上手投げで破る「奇跡」を演じた。両者とも真っ向からぶつかり合う力相撲。横綱相撲というものを心から堪能した。 あれから13年半。貴乃花はケガの後遺症に苦しみ、武蔵丸はしだいに力が衰え、間もなく引退する。その後は、朝青龍が他を圧倒するのをひたすら見続けてきたような気がする。 先場所の白鵬・朝青龍戦は、13年ぶりに見る千秋楽結びの一番、優勝をかけた横綱同士の直接対決だった。日本中から総バッシングを受けながら耐え忍んだ2場所の謹慎処分明けの朝青龍。調整不十分とスタミナ不足が心配されたが、日を追うごとに体の切れが良くなり、いきなり復活Vの期待が高まる。一方の白鵬は「朝青龍が休んでいる間、自分は相撲を取り続けてきた。絶対負けるわけにはいかない」と息巻く。まさに意地と意地のぶつかり合い。 立ち合いから両者がっぷり四ツ。力が緊迫し動かない。朝青龍の巻き返しに乗じて白鵬が前に出ると、一瞬、朝青龍が白鵬を高々と吊った。ここで朝青龍の稽古不足が初めて露呈する。吊りの体勢を維持できず、腰砕け気味に白鵬を下ろした直後に投げを打たれ敗退した。 |
誰が勝ち誰が負けたか、ではなく、相撲そのものが面白かった。久しぶりに興奮し、久しぶりに手に汗握った。そういう素晴らしい相撲を見せてくれた2人の横綱に、心から感動した。最高位を極めた者同士の対戦は、言うまでもなく角界で最もレベル高い相撲だ。そこに「どうしても負けたくない。勝ちたい」という事情が加わり、ドラマが展開されたとき、最高の舞台設定が整う。 プロスポーツとしてのエンターテイメントも求められる大相撲では、そんな舞台設定も合わさって初めて、後世まで語り継がれるような「名勝負」が誕生するものだ。初場所の白鵬・朝青龍線も、間違いなくその1つに加わった。 新聞報道によるとその一番の視聴率は60%近いものだったそうだ。そして翌日、あちこちの職場はその話題で持ちきりだったことは想像に難くない。 モンゴル力士が活躍しているのが面白くない − そういう声もある。だがこの一番に関しては、誰もそれを言わない。確かに強い日本人力士の登場も待望するが、どこの国の出身であれ、素晴らしい相撲を取った力士に対しては惜しみない拍手と喝采が贈られる。大相撲も、ようやくそんな状況になってきたのかもしれない。サッカーやK1では、日本人選手より世界トップレベルの外国人選手のほうが人気がある。大相撲もそういう時代に変遷していくのかもしれない。やや複雑な心境ではあるが…。 (2008/02/01) |
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