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46.無口は去れ
場所2日目のNHK大相撲中継。解説を務めたのは、正面が佐渡ヶ嶽親方(もと琴ノ若)、向正面に尾上親方(もと濱ノ島)。これがひどいのなんの。2人とも口が重すぎた。たまに話をしても、声が小さくて「モゴモゴ」としか聞こえない。およそスポーツ番組とは思えぬ陰鬱さ。冗談じゃなく、葬式の中継でも見ているような気分になった。
実況は、その場の雰囲気を生かしも殺しもする。優れた実況は人々の心に深く刻まれ、後世まで語り継がれる。相撲中継であれば、さりげない所作にその力士のこだわりや思い入れを見出し、一つの結果にドラマや因果関係を語ってみせる。それが見る者を感動させ、新たな発見や知識を得る楽しさをもたらしてくれるのではないだろうか。
くの場合、相撲の解説は親方が務める。そのほとんどは、思うに、いまだに力士感覚から抜け切れていない。つまり「インタビューされる側」にいると誤解しているフシがある。アナウンサーから何か聞かれたら答えるが、聞かれない限り黙っていればいいと思っているのなら、勘違いもはなはだしい。
解説者は、言ってみれば相撲の宣伝マン。今から始まろうとしている取り組みの面白さを語り、視聴者をテレビの前に釘付けにしなければならない。ここぞとばかりに相撲の魅力を語り、少しでも多くの相撲ファンを作っていかなければならない。そのためには取材もし、下調べもし、十分な資料とネタ話をもって本番に臨むべきだ。自ら語りかけようとせず、質問に対してありきたりの返答をするだけなら、いっそ居ないほうがいい。雰囲気が暗くなるだけだ。
挿絵と文章は関係ありません
方以外の解説者は例外なく面白い。北の富士、舞の海、内舘牧子、やくみつる、デーモン小暮といった面々は、それぞれ独自の審美眼や相撲哲学を持っていて、見る者を飽きさせない。相撲の良し悪しをはっきりと指摘し、自身の好みや思い入れを伝え、エピソードや懐かしい時代を語り、時には相撲界へ提言もする。普段から力士に接している親方衆の話が、そうした協会外の人たちよりつまらないのはおかしい。
北の富士にしろ舞の海にしろ、視聴者の反響があるから何度も招かれているはずだ。彼らは、相撲協会から給料をもらっているわけじゃない。つまらない解説をして、二度とNHKに呼んでもらえなければ、みすみす収入を逃すことになる。だから真剣に面白い話を語ろうとしているのだと思う。
士はもともと口数が少ないものだ。インタビューであまり喋らないように注意している力士もいる。だが現役を退いて親方になり、相撲中継の解説をするようになったら話は別だ。口が重かろうと何だろうと、相撲の醍醐味を人に語って聞かせなければならない。
野球やサッカーのように、あるいは競馬のように、喋りっぱなしの実況をしろとは言わない。相撲独特の間を味わえる実況の仕方というのもあるだろう。だが質問されなければ発言しないという消極さで、何ら視聴者に語る材料もないのなら、自ら解説を辞してほしい。せっかくの好取組も告別式のようにしてしまうのだから。
(2007/02/01)
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