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44.眠れない白鵬
綱昇進は決定的と思われた白鵬が九州場所を全休。それが返すがえすも悔やまれる。その結果、またしても朝青龍の独走優勝を許してしまった。
モンゴル人ではあるが、白鵬には日本人の琴線を触わす魅力が漂っている。相手を挑発したりせず、静かで風格のある物腰。相撲の王道とも言える正攻法の四ツ相撲。公私にわたって相撲浸けのストイックな日々。いずれも現横綱の朝青龍には無い個性。双葉山や大鵬、貴乃花などを彷彿とさせる個性だ。
優勝のかかった春場所。白鵬は決定戦で朝青龍に敗れたものの、本割ではその朝青龍に土を付け、殊勲賞と技能賞を同時受賞。翌場所での大関昇進を決めた。千秋楽のインタビューで「ぜんぜん眠れませんでした」という白鵬のコメントは、ずいぶん新鮮で清々しく思えた。
思えば最近は、相撲に限らずどのスポーツにおいても、大事な勝負を前に「ぐっすり眠れた」と答える若者が多い。現代っ子はそれほどプレッシャーに強いのだろうか。切り替えが早いと言われればそれまで。だが、心の底から勝利を欲することなく、勝負のことで頭が一杯になるぐらいとことん物事と対峙できなければ(対峙しようとしなければ)、さぞかし寝つきも良いだろう。
挿絵と文章は関係ありません
は苦悶する者に未来を感じる。物事と真正面から向き合い、苦悶するその姿勢に。15日間ぶっ続けで眠らなければ体調も崩れるだろうが、せめて雌雄を決する大一番の前夜は、まんじりともせず夜明けを迎えてほしいものだ。
迷いが無く思い切りのいい相撲を取った舞の海でさえ、夜更けまでビデオを見ながら相手を研究し、土俵上で仕切りを重ねている時でもまだ戦法を考えていた。自分の理想とする相撲が取れない貴乃花は、明け方まで四股を踏み、すり足や鉄砲をやりながらイメージトレーニングに没頭した。心の底から「勝ちたい」と思うことは、つまりはそういうことだ。眠れるわけがない。
子は「四十にして惑わず」と言った。それは同時に、それまでは惑ってばかりいたということでもあろう。惑い、悩み、苦しみ、試行錯誤する。そういう経験を踏まえて初めて不惑の境地へと達することができるような気がする。
まだ経験が浅く、何の実績もない若者がぐっすり眠れるのはやはりおかしい。眠れない白鵬にこそ輝かしい未来が待っているいるに違いない。
(2006/12/01)
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