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今場所一番の話題は、何と言っても魁皇の横綱昇進が成るかどうかだ。 日本相撲協会の規定により、2場所続けて優勝(またはそれに準じる成績)をおさめた大関は横綱に昇進できる。だから優勝した大関は、次の場所が自動的に「綱取り場所」となる。だが今場所の魁皇に対しては、そんな通りいっぺんの期待感ではおさまらない。魁皇のファンはもとより、九州の人たち、さらには日本国民の期待が一身に集まっているような感じだ。 魁皇のファンの興奮はおおよそ推測できる。柔道で鳴らした古賀少年は入門当初から注目された。その期待に応えて魁皇も順調に出世。二十歳で入幕し、入幕4場所目の新三役(小結)で勝ち越した時は、誰しも年内の大関昇進を疑わなかった。 だが、そこに大きな壁があった。平成6年から平成12年まで、魁皇は三役から先に進めぬまま7年間を過ごした。その間39場所で、三役を実に33場所も務めている。 ようやく大関になってからも一進一退が続いた。4年以上もの間、大関から陥落することも横綱に上がるこもなく今日に至っている。優勝すること5回。大関になってからは4回優勝し、必然的に横綱昇進のチャンスを4回逃したことになる。 かつて5回も優勝して横綱になれなかった力士がいただろうか(5回も優勝していない横綱ならたくさんいる)。力は十分にある。だからこそ、魁皇を横綱にしたいというファンの気持ちは痛いほどよく解る。 |
九州出身の横綱は、昭和40年に昇進した佐田の山以来、30年以上も誕生していない。歴代横綱でも双葉山と朝潮と合わせて3人しかいない。どこよりも熱狂的な九州の相撲ファンとしては「地元の横綱」を誕生させる千載一遇のチャンスだ。 福岡出身だということも見逃せない。大分でも長崎でもなく、ばりばりの「地元っ子」だ。福岡出身の力士はあまりいない。平成に入ってからの幕内力士は、魁皇以外では貴ノ嶺と栃乃藤のみ。いずれも前頭2ケタ代に終わった地味な力士だ。 ひさびさの大関、それも、ひさびさの福岡出身が、よりにもよって九州場所で悲願にかけるのだから、これ以上の舞台はない。九州の人たちの盛り上がりようが目に浮かぶ。 日本の国民も、総じて魁皇を応援していることだろう。平成15年初場所で貴乃花が引退して以降、国技・相撲の頂点は武蔵丸や朝青龍という外国人が占めてき。これに対抗する日本人横綱の出現を、全国の相撲ファンが待望している。その頼みの綱が魁皇なのだ。 これまでと同様、魁皇の体調は万全ではない。持病の腰痛は、辛うじて小康状態を保っているに過ぎない。魁皇の言葉にもあまり意気込みが感じられない。綱取りにかける熱意も、ライバルを威嚇する言葉も発しない。闘志を内に秘め、5回目の綱取り場所を、静かに平常心で迎えようとしている。 (2004/11/01) |
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