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先場所は11日目まで朝青龍・千代大海・魁皇・朝赤龍の4力士が全勝で、これまでになく優勝争いが白熱した。朝赤龍は翌12日目も勝ち、千秋楽まで13勝1敗。けっきょく千秋楽に敗れて優勝を逃したが、もう少しで「前頭12枚目の優勝」という珍事が実現するところだった。 似たような珍事が無いわけではない。新しいところでは平成12年の春場所で、前頭14枚目の貴闘力が13勝2敗で優勝している。貴闘力はそれまで10年近く幕内を務め、25場所も三役経験のある実力者だったから、わざと平幕下位に下がって大勝ちしたのでないかと訝る者もいた。いずれにせよ貴闘力の優勝は立派なもの。平幕優勝が至難の業であるのは、先例が数少ないことが証明している。 それでも力士の成績を考えたときに、平幕中位〜下位の力士が有利であるのは否めない。基本的に対戦相手が楽だからだ。例えば前頭筆頭〜4枚目であれば全ての横綱・大関と対戦するが、前頭5〜6枚目になるとそのうち1人か2人としか対戦せず、前頭7枚目以下なら全く対戦しない。だから、例えば同じ8勝7敗でも「前頭筆頭の8勝」と「前頭14枚目の8勝」では、その大変さが較べものにならない。 三賞の選考時にはそのあたりも考慮されるが、「いちばん多く勝った者が優勝」という賜杯レースでは、明らかに不平等が生じている。 |
力士の対戦表のことを割りと呼ぶ。割りを考えるのは日本相撲協会で、場所中は毎日昼過ぎに、2日後の割りが発表される。 通常は近い番付の力士どうしが対戦するが、序盤から勝ちまくると次第に上位の強い力士とぶつけられることになる。普通なら前頭2ケタ台の力士としか対戦しないはずの朝赤龍にも、三役戦や大関戦が組まれるというわけだ。 はっきり言って不平等である。例えば朝赤龍が全勝の魁皇と対戦した日、同じく前頭12枚目の闘牙は14枚目の春ノ山と対戦していた。東西が違うだけで同じ番付にありながら、これだけ対戦相手の差が生じている。 そんな割りの作り方は、しかしながら、いたって公正な処置だと思う。そうしなければ平幕下位の優勝者が続出することだろう。上位では全く通用しないのに、弱い力士相手に勝ちまくって優勝したのではつまらない。 相撲には明文化されていない曖昧な規範やルールがたくさんある。番付の決定方法、大関や横綱への昇進基準、立ち合いの「手つき不十分」の見極め、微妙な勝負の「同体」と「死に体」の区別、三賞の選考方法・・・・。割りの決定方法もその一つだ。それを良しとするか否かは個人の自由だが、それが相撲の相撲たる由縁だろう。 (2004/03/01) |
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