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力士はふけるのが早い。引退して親方になれば、たとえ20代でも「年寄」と呼ばれる身の上だ。 年寄名跡(みょうせき)の数が相撲協会には105ある。実際には107の名跡が存在していて、残る2つは大鵬親方と北の湖親方の名跡。65歳の定年を迎えるまでのあいだ有効な「一代年寄」だ。北の湖という大横綱の功績が認められて本人に送られたものだから、定年になっても誰かに継承させることはできない。 実はもう一人、一代年寄が存在するはずだった。それが千代の富士。千代は大鵬のに1つ及ばない31回の優勝を果たしている。通算の勝ち星が千勝を超えたのは千代しかいない。そんな千代に、相撲協会は一代年寄を提示したが、千代のほうでそれを断った。期限付き、自分だけに有効な名前ではなく、代々受け継がれる伝統ある名跡を選んだのだ。 |
大鵬、北の湖、千代の富士は歴代横綱の中でもその強さが際立っている。優勝回数、全勝優勝数、連続優勝数、横綱在位、連勝数といった記録のベスト3は、ことごとくこの3人。それらの記録は圧倒的な強さが長期にわたって続いたことを示す数字で、一時代を築いたことを物語っている。 つまり一代年寄りなど、そう簡単になれるものではない。不世出の天才、天下無双、連戦連勝の横綱でなければならないのだ。優勝しても、ファンから「またこいつか」と憎まれるぐらい、どうしようもなく強い横綱でなければ、相撲協会は推挙しない。 その3人ほど憎まれはしなかったが、3人に肉迫する強さを誇った力士がいる。平成の大横綱 貴乃花だ。曙、若乃花、武蔵丸といったきら星のごとき横綱たちと同時代にありながら、その実績は他の追随を許さない。すなわち.... ■優勝回数 1位大鵬32、 2位千代31、 3位北湖24、 4位貴花22 ■全勝優勝回数 1位大鵬8、 2位北湖,千代7、 4位貴花4 ■連続優勝場所数 1位大鵬6、 2位北湖,千代5、 4位貴花4 ■連続勝ち星 1位双葉山69、 2位千代53、 3位大鵬45、 4位北湖32、 5位貴花30 等々、貴乃花はビッグ3に次ぐ実績だ。これが最年少記録やスピード記録といった分野では、貴乃花の独壇場となる。人気については言うまでもない。相撲界に対する貢献度は大きい。 現在、二子山部屋付きの「貴乃花親方」として後進の指導にあたっている貴乃花だが、一代年寄の資格は十分あるように思える。一代年寄は単なる名跡でなく、相撲史を体現する記念碑のようなものだと思う。「注射相撲」が蔓延した昭和から平成への過渡期を、ひたすらガチンコ相撲で君臨したのだから立派なものだ。貴乃花にぜひ一代年寄を贈りたい。 (2004/01/01) |
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